行政書士山口法務事務所

大切な約束を書面にする!



1.契約書って?

「契約」は、ある者が他の者(相手方)に対して「申込」をし、これに対して当該相手方が「承諾」をすることによって成立します。
一方、「契約書」というのは、当事者がその合意内容を書面にし、当事者がこれで間違いない、と署名や記名押印をしたものをいいます。覚書、確認書、取決め書といった名称のものもあります。
ところで私は前職で、毎年4月の新入社員研修において「今日、あなたは会社に来るまで契約を締結したはずだ」と訊いていました。化学メーカーだったので理科系出身者が多く、法律に馴染みがないようで、誰もが「契約なんてそんな大げさなことはしていませんよ」と言います。そこで、私は訊き返します。「電車やバスに乗らなかった? コンビニで買い物をしなかった? 電車やバスで来たのなら運送契約、おにぎりやパンを買ったなら売買契約を締結したと法的には言えるんだよ」・・・・新入社員は目をパチクリします。すかさず私は続けて、「でもこんな場合、どこそこの誰がパンを1個買って108円支払う、そしてどこそこのコンビニが108円受け取る、なんていちいち書面にしないよね。でも値の張る買い物だったら、書面にして残すよね。例えば、自動車、土地や家みたいに高価な場合ではね。それは何故だかわかる?」
ここまで言うと、よく理解し。言った言わないをなくす、約束した内容を明確にする、もし問題が生じたときの対処や責任をはっきりさせると的確な答えが返ってきました。

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2.ビジネスでは書面による契約締結が必要

契約は「申込」とこれに対する「承諾」だけで成立するのが原則です。しかし、とくにビジネスでは、以下の理由で書面にします。
①法律の任意規定の活用
民法や商法には、任意規定といって相手方との合意で排除できる規定が多くあります。契約書でこの任意規定を活用して、自分により有利な条件にすることが可能となります。
②権利義務の明確化による裁判リスクの低減
日本では、契約上のトラブルがすぐに訴訟になる例は少ないのが現状です。しかし、今後は企業活動における紛争が増加すると想定され、契約についてのトラブルを企業経営のリスクの1つと考えるべきです。そのため、裁判となるリスクを抑えるため、必ず互いに納得がいくように合意を形成したうえで締結することが必要となります。
③裁判での証拠
民事訴訟法では、証拠裁判主義が採用されていますので、万一裁判になると契約書を証拠に有利に展開することができます。したがって、勝訴したければ、勝てる契約書を用意しておかなければなりません。

以上の法律的な理由に加え、「環境管理」、「反社会的勢力との関係排除」といった条項を設け、また細かい体裁を含めしっかりした契約書の作成・チェックができる会社であることを相手方に示すことで、自社が法令遵守意識が高く、信頼できる会社であるとアピールすることができる絶好の機会であるということがいえます。

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3.契約書に書式はない

実は契約書には法定の書式はありません。でもどんな書式でもよい訳ではありません。
契約書は文書であるため、非常に高い証拠能力があります。せっかく有利な条件を獲得できても、意図をうまく表現ができていない契約書ならすべて水の泡となってしまうことも。そこで、しっかりした書式の契約書案を作成する必要があります。
(1)表 現
私は、契約書というのは、第三者にも理解できる表現でなければならないと考えています。つまり、訴訟になるといくら当事者がよく判っていても、裁判官が理解できない表現は不適切と言わざるをえません。
例えば、特定業界でのみ使われる用語や、一部の地方で使われる方言などは避けるべきです。これらは定義が曖昧で、様々な解釈の余地がある場合が多く、これが裁判の争点になると時間や費用がかかることにもつながるからです。
どうしても業界用語を使わざるを得ない場合は、用語の定義を明確に規定しておきます。この定義条項は、最近では、国際取引の契約書だけでなく、国内の契約書でも規定されるのが一般的です。
また、体裁的なことですが、「および」と「及び」、「または」と「又は」などは、かな表記、漢字表記のいずれかに統一しないと作案者の資質が問われるでしょう。そのうえで、「および(及び)」と「ならびに(並びに)」、「または(又は)」と「もしくは(若しくは)」や「とき」と「時」は、法令用語として一定の決まりがあります。その違いをよく理解したうえで使い分けましょう。
さらに、「項」と「号」の混同、頭出しの位置ずれも要注意。複数の人が関わると、いつの間にか書式が不統一となったり、項や号の表記が異なっていることがあります。また、例えば第3項で「前第2項の規定にかかわらず、・・・・」と表現された案を見かけます。法令では「前第2項」という表現は存在しません。第1項、第2項を熟読して、「前項」か「前2項」かに修正します。
(2)数字の表記
特に金額の大きい契約や数字じたいに重要な意味のある場合は数字の表記に要注意です。
もっとも、最近の契約書はパソコンで作成するので、数字の改ざんはすぐに判明します。したがって、読みやすいアラビア数字を使ってもまず問題は生じません。が、「壱、弐、参、拾」といった漢数字を併記するのは、思い違いもなくせるので、有効な手法であると思います。

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4.表題(タイトル)には契約の種類を

以下、契約書の構成部分ごとの説明をします。まず、表題(タイトル)についてです。
契約書において最も重要なのは、本来は合意の内容です。ですから、その意味で表題はなくても良いし、どのように書いても構いません。しかし、いきなり前文や本文から始まると何の書面かわかりにくくなります。また、表題のつけ方も単に「契約書」というのではなく、契約書管理に役立てるため、「取引基本契約書」、「賃貸借契約書」というように少なくとも契約の種類が端的にわかるようにすることをお勧めします。
ところで、「覚書」、「確認書」、「協定書」や「念書」といった表題がついたものは契約書ではない、と考えている人がいます。しかし、「2人以上の当事者の意思が一致して、互いの権利義務を生ずる約束」の成立を証する書面であれば、覚書等の名称であっても「契約書」です。
なお、「念書」や「差入書」といった表題で、差し出した者が一方的に義務を負う内容の書面があります。原則として、差し出す方は書面どおりの法的拘束を受け、受け取る方は書面どおりの範囲に限って権利を得ることになります。そのため、差し出す場合も受け取る場合も記述内容に十分注意する必要があります。

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5.前文(まえぶん)には法的効力がない

この前文には、契約の当事者、契約内容の趣旨・概略等を記載します。
(1)契約の当事者
契約の当事者が誰であるかは、契約を実際に履行するうえで、極めて重要な事項です。
また、契約当事者について、前文での記載と、普通末尾にある署名欄の記載は一致しなければなりません。そうでないと契約当事者が一体誰であるか不明確となり、契約じたいの存在も否定されるおそれがあります。
なお、相手方が個人事業者の場合は、その屋号も明記します。消費者契約法などでは、個人名だけで締結すると、その個人が消費者として強力に保護されてしまうからです。
(2)契約内容の趣旨・概略等
実は、前文には法的拘束力はありません。でも記載されるのは、後日、契約内容の解釈に争いが生じた場合、前文に基づき契約内容を解釈する余地があるからです(もちろん、このような契約全体の趣旨等は、独立した条項で規定しても構いません)。
前文に何を記載するかというと、例えば既に締結した契約(原契約)に基づいて詳細な取り決めをするもの、あるいは原契約を修正するものである旨ということです。例えば交通事故による損害賠償請求での和解契約では、事故発生の日時や場所、どのような損害に基づくのか明記して、どの事故に関するものなのか特定できるようにします。債務の遅延損害金の和解契約でも同様です。

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6.本文は契約書の最重要部分

契約書では、前文に続いて本文が記載されます。
言うまでもなく、この本文が契約書の中心で、契約書案の作成・チェックで、最も注力しなければならない部分です。契約の種類によって特に検討しなければならない項目がありますが、ここでは、継続的な売買契約を念頭に、所有権および危険負担の移転に関する条項ついて説明します。まず、記載例を掲げます。
(本製品の受渡しおよび所有権の移転)
第 ○ 条 本製品の受渡しは、その都度、乙が指定する時期および場所への持込み渡しとし、乙または乙指定の荷受人の受領をもって、甲乙間の受渡しが完了する。
この場合、乙は、自らが本製品を受領する場合または乙から当該製品について権利を取得する者もしくは乙から受領する権限を委任された荷受人(以下、「受領権者」という。)が本製品を受領する場合、甲あてに物品受領証を発行し、甲はその物品受領証と引換えに当該製品を乙または受領権者に引渡すものとする。
2 前項に定める受渡完了時点において、当該製品に関する所有権・危険負担および保管責任は、甲から乙に移転する。
ただし、特約ある場合、代金の弁済が完了する時までは、当該製品の所有権は移転しないものとする。

ところで、所有権の移転時期を記載するのは何故でしょう?
実は、民法には所有権の移転時期の規定がありません。判例上も解釈が確定しているわけではありません。だから、契約内容自由の原則に基づき、契約書に所有権移転時期を明記するわけです。
具体的には、契約の成立時、登記や登録の完了時、物の引渡し時、検査の終了時、支払い完済時などが考えられます。売主にとっては、所有権の移転時期は遅い方が有利です。移転時期が遅いほど、買主の代金の回収がしやすいからです。一方、買主には、早いほうが有利です。そのほうが早く転売や加工ができるからです。
このように所有権の移転時期は、双方の利害が完全に対立しますので、実務上は、公平を図るため、目的物の引渡し(納品)があった時点や、検査が終わった時点というように、取引の目的物がどちらの支配下にあるかで決定することとしていることが多いです。

また危険負担について規定していますが、この危険負担って、普段あまり聞かれない言葉ですよね。危険負担の規定とは、契約目的の対象物について、どちらが危険を負担するのかの特約です。例えば、建物の売買において、契約成立後、落雷や地震など売主・買主双方の責任が及ばない原因でその建物が滅失した場合、どちらがその損害を負担するのかということです。
民法では、買主(建物の引渡しを請求できる債権者)は建物が滅失していても、その代金を支払わなければならず、売主(建物の引渡しをしなければならない債務者)は、建物滅失について損害を負担する必要がなく、代金請求をすることができるとされています(第534条)。
建物のような特定物のほか、不特定物が特定後に引渡しを求める契約の場合も、民法第534条により、引渡しを求めることができる債権者(買主等)が、その危険を負います。このほか、民法第535条や第536条で、危険負担について規定されています。でも、このような民法上の規定をそのまま適用すると、あまりにも債権者(買主等)に酷ですよね。そこで、契約実務では、この債権者の負担を是正するため、契約書によって危険負担の特約を規定することが一般的です。
しかし、特に重要な「どの時点で売主から買主に買主に危険負担が移転するのか」という点について民法上も判例も明確ではありません。
この時期については、例えば、契約が成立した時点、登記や登録が完了した時点、物の引渡しがあった時点、検査が終わった時点、支払いが完済した時点などの様々な時点が考えられます。
買主にとっては、危険負担の移転の時期が遅い方が有利。そのほうが危険を負担すべき時間が短くなるからです。逆に、売主にとっては、危険負担の移転時期は早いほうが有利です。ですから、危険負担の移転の時期については、双方の利害が完全に対立します。
そのため、実務上は、取引の目的物がどちらの支配下にあるかで危険負担を決定するという公平な内容とすることが一般的です。具体的には、目的物の受渡しがあった時点(受渡完了時)とします。こうすると、目的物に支配を及ぼしている当事者がその危険を負担することになります。

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7.後文(あとぶん)で締めくくる

後文には、契約を書面にする目的、作成部数、保有当事者などを記載するのが一般的で、「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、それぞれ1通を保有する。」というように記載して、契約書を締めくくります。
契約は諾成・不要式が原則なのですが、トラブル防止のため合意事項を書面にしますので、このように記載するのです。
また、作成するのは1通だけ、というのでも構わないのですが、その1通を保有している当事者が偽造や改ざんをしてしまうおそれがあります。そうなると、保有していない当事者は、その偽造・改ざんに手の打ちようがないし、契約内容を確認できなくなり、圧倒的に不利な状況となります。
したがって、契約書は、当事者の数だけ作成し、当事者すべてが署名・記名押印したうえで、当事者全員が保有するのが公平です。

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8.「住所や法人名・氏名の記載」と「署名または記名押印」

住所には、当事者確定の意味があります。同姓同名の者との区別ができ、万一連絡が取れなくなった場合の手がかりとなります。また法人名を記載することにより、個人による契約でないことを明確にできます。
次に、署名というのは、自ら氏名・名称を書くことをいいます。署名は筆跡が残るため、その証拠能力は極めて高く、署名者が契約を締結した証拠として有効な手段となります。文化の違いから、海外企業との契約は署名によるのが一般的です。
一方、記名は、ゴム印やパソコンの印字のほか、他人に書いてもらうなどによって自分の氏名を表記することです。本人の筆跡が残らないため、署名に比べ証拠能力が劣ります。
したがって、当事者を確定するためには、署名が望ましい方法です。しかし、当事者の確定ができますので、日本の契約実務では「記名押印」という方法がとられるのが一般的です。使用する印鑑は、いわゆる認印が一般的ですが、不動産売買契約書など重要な契約書の場合は、実印プラス印鑑証明書添付が求められます。

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9.お手伝いできること

私は前職で年間500~600件の契約書案の審査をしていました。経験上言えるのは、案を提出した側が主導権を持つことができる、ということです。仮に相手側から案を提示された場合も慎重に文言を検討しないといけません。思わぬ後し穴があるかもしれないからです。
行政書士山口法務事務所は、事情をお聴かせいただき、利益を生む契約の実現を支援します。

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